名伴奏者の本から 「やさしく弾ける部分に 手間をかける」 文章を抜粋
「 練習するのは 速い所だけ 」 だと、どうなるのか? 夢藤 哲彦

速いパッセージだけ 練習、残りは適当 という伴奏の 演奏会 …
シューマン 「 女の愛と生涯 」、簡単に弾ける音に 手間を かけてないので、
味の変化、強弱の変化、歌の余韻は、全くなし。
 「 老境に至った 自称"専門家" 」 「 この人、信用できないなぁ 」。

独奏でも、同じ。 シューマン 「交響的練習曲 」 で、
 ・最初の和音が不注意でバラける
 ・和音のバランスは 考えたことも ないし、練習した形跡も ない
 ・始めの2小節で、「 うた 」 を つくるのに 失敗
  (楽譜の 「 ヨコ 」 を まとめる作業を やってない )
「 先が 思いやられるなあ、あと 20分 我慢するのか 」 と 思った瞬間、
前の列に 座っていた 大音楽家は、腕時計に 目を 走らせていた …

 名伴奏者は 口を 揃えて 「 やさしく弾ける部分を、味わい深く 弾くのが 大切 」 と
書いている。 彼らの 考え、練習方法、教育観、体験談 は?  ( 2010. 6. 1.)
 ヘルムート・ドイチュ(鮫島有美子訳)伴奏の芸術    お話と演奏例CD 本に比べ得られる情報量が極端に少ないが、音のコントロールが自在な境地    ピュイグ=ロジェ の文章・インタビューをまとめた"ある「完全な音楽家」の肖像"    ジェラルド・ムーア お耳ざわりですか
「 やさしい 」歌は あるのだろうか?  ヘルムート・ドイチュ
 歌曲の伴奏は、「やさしい」 ために 過小評価されている。
狭い意味で テクニック的に 難しいと 名づけられるもの、例えば 速いパッセージとか
大きな跳躍、3度進行、和音のトリルなどは、ほとんど 見つからない。
 多くは、いや 大部分の歌曲は、実際 初見で 弾けるくらいのもの だろう。
そして、「 初見で 弾けるものなら、練習する必要は、ない。」
紛れもなく この誤った考え方が、多くの学生の頭に、こびりついてしまっている …

 ジェラルド・ムーアは、「 やさしいシューベルト歌曲など 一曲も 知らない 」 と
言ったが、私も 全く 同意見である。
自分に 本当に 厳しく 耳を 傾ければ、すぐにわかるように、
根本において 「 やさしい 」 ものなど 何一つ ありはしない。

 我々のテクニックの中心 と なるのは、とりわけ二つ。
音質 と 確かなリズム感覚 である。 
そこに、繊細な アーティキュレーションや
フレージング、想像力豊かなペダルの使い方
が 加わってくる。
 (ヘルムート・ドイチュ 伴奏の芸術 19-21頁 音楽之友社 Amazon.co.jp )
”初見で 弾ける” ような 「 さすらい人の夜の歌 (シューベルト)」
 前奏和音 9個を 練習  ジェラルド・ムーア

1)それぞれの和音に 一様で 柔らかなアクセントをつけて 弾いてみる。
  (ただし、すべてピアニッシモ)
2)フレーズに、ほんの少しだけ cresc. dim. をつけて、ふくらめて、おさめる。
  (あまり やりすぎると、つり合いがとれなくなる。…始めからやり直し)
3)ペダルの使い方が悪く、和音が濁る。 (いろいろ 試してみる)

4)右手の一番高い音 担当の指に、繊細に 重みをかけて 弾いてみる。
  (一番高い音だけ 歌いすぎる。 過ぎたるは及ばざるがごとし。
   …また、やり直し)
5)内声の すべてと 低音オクターブを、はっきり 聴きとれるように 弾く。
  (ただし、決して柔らかすぎては、ならない)
6)一番高い音を 微妙に漂わせて、誇張しているのを
  聴衆に 気づかれないように 弾く。
  (これこそ、この曲を 真に 芸術的に 演奏する 秘訣)

 ( ジェラルド・ムーア お耳ざわりですか 音楽之友社 277頁 Amazon )
学習曲を 選ぶ  ピュイグ=ロジェ
 全体に、ことさら難しいものを求め、やさしいものを 馬鹿にする傾向が
あるのではないでしょうか。
 ピアノの レパートリーの中でも 特に 難しい作品を 見事に 弾きこなす学生が、
メンデルスゾーンの 「無言歌」や、フォーレの作品など、技術は 中程度の難しさで
自身の 人間性を 最も 発揮しなければならない曲に なると、
どう 弾いていいか わからず、困ってしまう。

 メカニックと テクニックの意味が、混同されています。
若いうちに、人を 感動させるような小品にも、
大作と 同じだけの 注意を はらって、練習すべきです。
 (150頁)

 難しすぎる曲に 必死で 取り組むことに、私は あまり 意味を 見出しません。
やさしい曲を 確実に 良く弾き、それによって 一段一段 登ってゆく
という 努力の方が、ずっと 実を 結ぶことになる と 思います。

 難曲を 練習することは、必要ですが、演奏会などで 演奏する時は、
身体の 大きさに 合わないものは、避けた方が良い でしょう。 (82頁)
 ( ある「完全な音楽家」の肖像 音楽之友社 Amazon )

ピュイグ=ロジェ先生 関連記事
カザルスとの 初練習  ジェラルド・ムーア
 偉大なチェロ奏者 カザルスが、初顔合わせの練習で 選んだのは、
ベートーヴェン 後期のソナタ ニ長調 作品102 の 第2楽章 であった。
遅いテンポの 第2楽章は、音符を 弾くだけなら、とても 簡単。
最初の 20小節は、素人でも すぐに 読めるような 楽譜である。

 しかし、ゆったり弾く フレーズの中に、繊細な強弱・抑揚を
つけなければならないし、伴奏が 強すぎたり弱すぎたら、
調和がとれず台なしになってしまう。

共演者として、うまく溶け合うか 試されているわけだ。

私は、神経を 研ぎ澄まし、指先に 精神を 集中させて、鍵盤に 向かった …

 20数小節 進んだところで、カザルスは、突然 弾くのを 止めてしまった。
彼は 楽器を 静かに 横に 置き、私を 真正面から 見つめて言った。
「 私は、とても 満足です。」
 ( ジェラルド・ムーア お耳ざわりですか 音楽之友社 203-204頁 )
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